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[ビスカリアの星]■七七.


ジュシュベンダのファリンは年甲斐もなく胸をはずませて、足取りも軽く、いそぎ
所領地から君主の許へとはせ参じた。
彼は帳の向こうで玉座に坐っている程度にはイルタルの身代わりを
たまに務めることもあったが、それは生来、病がちであったイルタルが用心深く、
影武者を必要としたからであり、それを抜きにしたファリンはイルタルの一の側近、
股肱の友である。
ファリンは何かの賭けに勝ったかのような明るい気持ちで、その喜びを共有すべく、
招かれるままにイルタルの前に伺候した。
イルタルは不機嫌であった。
ファリンは笑顔の行き場をなくし、イルタルが机の上に放り出したままにしている書簡を
とりあえずは片付けながら、おそるおそる主君の顔色を伺った。
何故、機嫌がお悪いのだろう。
 「パトロベリ王子、コスモス領外駐屯地において、まことにご立派な態度とのこと。
  陣内に拘束中であったハイロウリーン領民を解放し、返還されたそうです」
 「そちの口からそれを聞いたのだ。知っておるわ」
 「その件、わたしには王子のご英断と思われましたが。イルタル様は、何かご不満でも」
痩身の君主は窓辺に肩肘をついて、古都の都の霧の夕暮れを眺めていた。
イルタルの眼は光の乱反射するその霧の向こうに、遠く、コスモスを凝視しているようであった。
その横顔は厳しい。
側近、兼、若い頃からの友人という立場から、ある程度は領主の情動を把握している
ファリンであったが、たまにこのようにまったく不明ということもあり、そうなればもう
お手上げである。
てっきりファリンは、贔屓にしていたパトロベリが領主代行権を片手に勇敢にも
コスモスへ向かったことにつき、イルタルが狂喜しているかと思っていたのだが。
 「放免したるハイロウリーン領民は、もとより軍属ではなく、故ナラ伯の家人。
  捕えておいても何が聴きだせるでもなし、王子到着に合わせてそれを機に
  返還しておいて、正解ではありませんか」
 「兵糧も減らずに済むしな」
 「何がお気に召さぬので」
主が皮肉屋なのは承知の上ながら、ファリンは手にした書簡をそれとなくかざして
イルタルの注意を引いた。
 「確かに王子が独断で赴かれたことではありますが、こうして、このように、
  パトロベリ様よりヴィスタの都を出る前に書かれた直筆の手紙も届き、パトロベリ様いわく、
  これより現地に趣くが、重要決裁はあくまでお上に相談の上で取り計らう、
  気に入らなければいつでも召還に応じると」
 「到着早々、文言を破っておるではないか」
 「おそれながら」
常とは逆に、ファリンはパトロベリの弁護に回った。
 「繰り返しますが、現地にてパトロベリ様、実にご立派な態度を示されたよし。
  特にハイロウリーンの旗を切ってのけた一件、頼もしく。
  副官キエフ以下、口を揃えて請合っておりますが」
 「旗を斬ったがどうした。偶然か故意かは知らぬが、人気とりの演技に過ぎぬ」
辛口な時には容赦ないイルタルであるが、さすがにファリンは青褪めた。
イルタル様は、怒っておられる。
 「自分にな」
ファリンの困惑に向けて、イルタルは付け加えた。夕陽の照らすその表情からは何も窺えない。
 「ご自分に、ですか」
 「パトロベリをついに、表舞台に引っ張り出してしまったとな」
 「はあ」
よく分からない。
イルタルこそは、満場一致でどうしようもないと見放されていたパトロベリ王子の
唯一の擁護者にして保護者。
イルタルの側近のファリンですら王族として望ましくないと脳裡から除外していたパトロベリを、
あくまでも庇い、その身分と地位と権利を過分なほどに守ってきた、ただひとりの人物ではないか。
パトロベリについて何を云われても、イルタルだけは、「あれは間違えたことはせぬ男」だの
「人を育てるということは人を信じるということ」などと云って、中傷や讒言を
一蹴してきたのではなかったか。
なので、ファリンはパトロベリ王子がジュシュベンダ駐屯地に忽然と現れ、なおかつ
いい方向にその存在を内外に知らしめた件、王子を守り立てていたイルタルの為にこそ
祝事と思え、手を取り合って喜ばぬまでも、久方ぶりにイルタルの笑顔が見れると思って
今日はいそいそと参内したのであったが。
古都の鐘が最後の音色を重々しく響かせた。
霧の中に浮遊している花の都は、雲の中の幻のように、鐘の音の余韻を抱えてゆっくりと
窓の向こうの茜色の深みへと沈もうとしていた。
イルタルは椅子の腕木をこつこつと叩いた。
それは、何か懸念ごとがある時の主君の癖であった。
 「あれに、申し訳が立たぬ」
 「あれとは」
 「テラ家の女」
テラ家の女。
パトロベリの母のことであろうか。とうの昔に故人である。
晩年の先々代から破格の寵を受け、子を生んだ女とはいえ、下方の出。
イルタルの御世の頃には完全に冷遇されており、小さな宮で母子二人きりで
息を詰めるようにして過ごしていたはずだ。
心労がたたってか、女は病に倒れた。
 (イルタル様。わたくし亡き後、王子がしっかりいたしましたら、アルバレス家から
  王子の籍を外し、パトロベリを市井の人間にしてやっていただきとうございます。
  きっとそのように。お約束下さいませ。どうか)
 「あの人との約束を反古にした」
ファリンに向き合ったイルタルの顔は、仮面をかぶっているかのようであった。
 「気遣い、見舞い。とんでもない。少年の頃から祖父の愛人であったあの人に
  よこしまな興味を抱き、鬱屈した感情で恋慕していたからこそのこと。ありふれた話であろう。
  不倫こそ果たさなかったものの、下心こみで、母子のすまう宮に足繁く通っていたに過ぎぬ」
 「それは初耳」
冷や汗が出る思いで、ファリンはしげしげとイルタルを眺めた。
今さら領主の古い恋を聞かされようとは思わなかった。
自分が鈍いのかも知れぬが、まったくそれに気がつかなかった。
テラ家の女。どんな女だったか。必死で記憶を探っても、日陰の女の印象ばかりである。
ようよう言葉をひねり出した。
 「あまり目立たない、ひっそりとした方であられましたな。目元のあたりが、パトロベリ様とは
  よく似ておられますか」
 「強欲で陰険な女であれば、その美貌とパトロベリを武器にして、いかようにでも
  宮廷にのさばって派閥を作り、こちらとも対抗していたであろうがな」
 (パトロベリ。どうしたのですか。そんなに心配しなくてもいいのよ。
  王子の手もこうして握ることができますよ。お母さまは少し眠いだけなの)
 (後のことは全てイルタル様に頼んでおきましたから、お母さまがいなくなっても、
  そんなに泣かないでね。お母さま、いつまでも貴方のことを見守っていますからね)
 「死の床にあっても、あとにのこす息子のことばかりを案じておられた。
  その約束を反古にした。パトロベリにはどうあっても、アルバレス家の一員として
  機能してもらわねばならなかった。たとえそれがパトロベリ・テラにとって、辛いことで
  あったとしてもだ」
 「わたしはてっきり、イルタル様が、そのご慧眼からパトロベリ様の能力を見抜いて信じ、
  ゆくゆくは王女さまの婿として宰相に立てることを視野に入れ、それもこれも見越した上で
  あの方を誰よりも見込んでおられたのだとばかり-----」
ファリンは咳払いをして、途中でやめた。
 「さすがに、おかしい、とは思ってはおりましたが」
 「ファリン」
 「はい」
 「わしがあれの母親に懸想していたから、だからさてはあれほどにパトロベリに
  目をかけていたのかと、いま思うておるだろう。一国を賭けておる身で公私混同など
  とんでもないわ。パトロベリを上に立つ人間にするには、兎を狼にするようなもの」
断言するイルタルの意図するところが、まだファリンにはのみ込めない。
ハイロウリーンと違い、王家に男子が少ないジュシュベンダである。
現領主イルタルも若い頃に生死をさまよう大病を患ったが、その息子も病弱ときて、
下手をすれば、簡単に跡目が途絶えてしまうアルバレス家の内情である。
イルタルのこのしかめ面は、故人の遺志を無視した罪悪感と、その兎を狼に
仕立て上げてでも後事を託さねばならぬことへの憂慮であろうか。
誤解するでないぞ、とイルタルはファリンに再度かぶせた。
 「見込みのない者に無益な期待をかけるほど安穏としておらぬわ。また、パトロベリには
  作り物のわざとらしい親愛の情や押し付けがましい信頼など、あっさり見抜かれてしまうわ。
  わしは本当にパトロベリが好きなのだぞ。いいところがいっぱいある。
  不憫な母親を見ていたせいか、弱い者に優しいし、間違えたことはせぬ男であるからな」
 「では、今回のパトロベリ様は、あれでよかったと」
 「それとこれとは別よ。わしは己が許せんのだ」
 「ううん、分かりません」
 「ついにパトロベリを修羅の道に追いやってしまった」
 「修羅の道ですと」
 「彼の迷いはすべて、心正しい者であるが故の、根深い病」
 「単にぐにゃぐにゃしているだけ、いや、失言です」
 「幸いにして、そなたの従兄のシャルスが現地にいる。老シャルスならば
  優先すべきものを優先してくれよう。両名の衝突は必定であるが、
  その苦味を超えねばパトロベリも、それまでよ」
霧の都は霧に沈み、夜になるにつれて、ふたたびその底から、星空に姿を現す。
ひえきった眼でそれを眺めながら、イルタル・アルバレスは口の中で付け加えた。
 (たとえ、どちらかがどちらかを斬って捨てることになろうとも、な)


星空はコスモスの上にも澄み切ってひろがっていた。
寝台のワリシダラムは、近づく気配に、眼を開けた。
 「君か」
灯りはなかった。ワリシダラムは天幕の天井を見上げたままだった。
レーレローザはその傍らに膝をついた。
寝静まったハイロウリーン陣には、風の音ばかりが鳴っていた。
 「誰だと思ったの」
 「最初はエクテ兄かと。あしおとの重みが違うので、次には、女だと」
 「具合はどう」
 「悪くないよ。典医がうるさいので、休んでいるだけ」
 「水、呑む?」
 「うん」
レーレローザが差し出した硝子の盃を、半身を起こしてワリシダラムは受け取った。
二人とも夜目が利く。水を飲み干すと、ワリシダラムはまだだるそうに
レーレローザに向き合った。
 「何の用」
 「お見舞いにかこつけた、同病相憐れむかしら」
 「いつ、同病になったんだよ」
はじめてワリシダラムはちょっと笑った。
レーレローザは寝台の空いているところに凭れ、片頬をつけた。
 「そうだ、迎えに出れなくてごめん」
 「いいのよ。ユーリ様のことは、ひどいことでした」
 「我ながらこれはやばいと思う顔色だったんだ。一日休んだら、元気になったよ」
 「人を失うのは-----」
断髪の少女騎士は、ぼんやりと、毛布に顔を埋めた。
 「人を喪うのは辛いわね。気持ちは分かるわ。冷たい、黒い水が、胸の裡にいっぱい」
何故、女騎士はよく髪を切るのだろう。レーレローザを眺めながら、ワリシダラムは不思議に想う。
レーレローザも、ブルーティアも、ルビリア姫も、話に聞くばかりのロゼッタ家の黒髪の令嬢も
みんな髪を短くしている。
 「邪魔だからよ」
ぼそぼそと、レーレローザはそれに答えた。
 「長いままにしてる女騎士もたくさんいるよ」
 「じゃあ邪魔じゃないんでしょ」
 「男でも多いけど。うちのカンクァダム兄とか。もっとも男前限定だけど」
ためらいがちに、ワリシダラムはレーレローザの頭に手を伸ばした。
 「長いほうがいいな。女らしくて」
こんなに綺麗な髪をしてるのに。
 (髪の長い女なら巷に幾らでもいるわよ。そちらが好きならそうなさったら)
しかし、常のような憎まれ口は、レーレローザの口からは出なかった。
 「今晩は、このまま、ここで休むわ」
 「何云ってんの」
 「疲れて眠いのよ。手を出したら殺すわよ」
 「それはオーガススィ式の新手の拷問なのか。僕を何だと思ってるんだ」
 「二人でいたら、ワリシダラム王子」
 「なに」
 「淋しくなくていいわ。どんなに辛くても」
俯いているレーレローザの髪を撫でても、うなじのあたりで、頼りなく途切れてしまう。
ワリシダラムは黙って身をずらし、寝台を半分あけた。
髪を撫でられると、鼓動のあたりまで、優しい音が伝わってくる。
レーレローザは、ワリシダラムの隣にすべりこんだ。


朝露を踏み分けて、第二陣に着任したインカタビアは、兄の天幕を訪れた。
 「おはようございます。ワーンダン兄上」
 「早いな、インカ。昨晩はよく眠れたか」
 「兄上をこちらの天幕に押し込めて、自分ばかりが快適に眠ることはできませんよ」
インカタビアは兄の小さな天幕を嘆かわしげに見廻した。
指揮官用の大きな天幕をインカタビアの為に明け渡して、ワーンダンは弟の到着を
待っていた。
 「ワーンダン兄上。父上の命により、参りました」
 「よくきた。すまないな。謹慎中の身ゆえ何も出来ないが、皆にはよく云ってある」
 「此度の件、兄上には何の落ち度もありません。父上もそれはよく分かっておられます。
  ハイロウリーンへ至る道中にあって、オーガススィの姫が誘拐されるなど、誰が
  予測出来ましょう」
兄に同情しているインカタビアは、自分が失策をしたかのように顔を曇らせていた。
ケアロス、イカロス、ワーンダンときて、カンクァダム、インカタビア、エクテマス、ワリシダラムと
七人揃った兄弟のうちでも、微妙に合うあわないがあり、互いにくそ真面目で不器用という
点において、インカタビアは、三男ワーンダンに親しみがあった。
すぐ上の兄カンクァダムと、すぐ下の弟エクテマスが、彼にとっては異人種としか
思えないこともあり、いっそうインカタビアにはワーンダンがまともな、話せる人間にみえる。
 「およばずながら、兄上の手伝いを」
 「いや、お前がここの指揮官だ。けじめはつけよう」
ワーンダンは頑として譲らず、その晩の食事の席も、下座についた。
 (居心地が悪いものだな)
兄よりも上の立場になるというのは、存外に、気を遣うものである。
表向きは平然と役割をこなしてはいても、それに徹するには、インカタビアはまだ若かった。
 (七人も男兄弟がいるのに、こうしていざ有事になると手が足りない気がして
 不安になるものだな。恵まれたハイロウリーンですらこれなのだから、ジュシュベンダなど、
 どうやって領内外の難局を乗り越え、持ちこたえているのか)
着任早々、どうもあれこれと気を張り詰めすぎて疲れてしまい、昨晩はあまり眠れなかった。
朝食の支度が整うまでの間、インカタビアは陣内を散歩することにした。
幾つかの天幕を巡ったところで、ブルーティアと出くわした。
 「おはようございます」
 「おはよう」
すぐに行ってしまおうとする。呼び止めた。
到着した際に挨拶は済ませていたが、それから話す機会もなかった。
 「ブルーティア。なにも貴女が怪我人の世話などしなくても。人は足りているのだし」
それは到着早々、インカタビアが気にしていたことであった。
ブルーティアはずっと医療天幕に詰めており、本国から送られてきた医師に混じって
怪我人に食事をとらせたり、着替えや、汚れ物の洗濯まで手伝っている。
薬瓶の入った箱を抱えたブルーティアは肘まで上着をまくりあげており、
朝日に照らされたその腕の白さが、インカタビアにはまぶしかった。
 「ワーンダン兄がどう説明したかは知りませんが、貴女は客人。作業に従事することはありません」
 「では、客人としての自由をお認めになって。これは、私が好きでやっていること。
  お気遣いは不要です」
 「まあ、そこまで云うなら」
 「では」
インカタビアは、ブルーティアを再度呼び止めた。
 「朝食を一緒にとってもらえますか。ブルーティア姫」
薬箱を抱えたままブルーティアは少し視線を外したが、「ええ」と応じた。
 「二人きりで」
インカタビアはブルーティアの手から薬箱を取り上げた。言い訳のように彼は付け加えた。
 「朝しか、落ち着いて君と話せないし」
 「ええ」
 「この陣に残ってくれたのが、君で良かったな。正直それしかこちらに来るにあたって
  前向きな要素がなかった。ワーンダン兄を差し置いて、わたしが指揮官になど。
  でもオーガススィから離れて一人で頑張っている君を見たら、自分もやらなくては
  という気になったよ。不謹慎かな」
ブルーティアは顔を上げた。
 「いつもそのように率直に?」
 「いや」
自分の素直さに少々の戸惑いを覚えながら、インカタビアはブルーティアと並んで
光のちらばる朝露の野を歩きはじめた。
その二人の後ろ姿を見送って、ユスタスは、医療天幕の中に入った。
天幕の中は、ハイロウリーンへ帰還する途上、クローバ・コスモスの一党に襲われた
重傷者でいっぱいであった。
動かせる者から順番に本国に搬送されており、今朝も専用の馬車が待機して横付けになっている。
天幕の内部にはすえたような臭いと薬のにおいがこもり、顔見知り程度には
名を覚えていた者たちの死骸を清め、形見としての髪を切り、
遺品を整理する作業にたずさわりながら、ユスタスは、憂鬱であった。
 (幼少の頃にコスモス家に養子に出たとはいえ、クローバ・コスモスは母さんの末弟。
  僕にとっては叔父にあたる人だけど、許せない。こうまでする必要がどこにあったんだ)
視界が暗く、怒りで赤くなる思いで、ユスタスは眼を拭った。
なので、そのクローバ・コスモスに逢いに行ってはもらえぬかと、ワーンダンと
インカタビアの両名から頭を低くしてひそかに頼まれたその日の午後、ユスタスは、力いっぱい、
 「なんでだよ」
怒鳴り返していた。
周囲には他にひと気なく、川の音ばかりであった。
 「お静かに。ユースタビラ-----ユスタス・フラワン様」
 「僕は確かにこうやってハイロウリーンのお世話になってるけど
  それはいわば成り行きに過ぎぬ結果であって、ハイロウリーンの肩を持ったり
  便宜をはかったりはしないし、出来ないよ」
当然、二王子はそれを重々承知の上で、ユスタスに乞うているのである。
インカタビアは兄ワーンダンの傍らから進み出た。
 「ルルドピアス姫を奪取したる騎士クローバ・コスモスは、コスモス領の
  小邑に潜伏中である模様。その周囲はコスモス兵が囲み、近づけぬ気配とか」
 「コスモス兵?」
それでは、領主タイラン・レイズンが関与を認めたようなものである。
 「そこはまだしかとは」
 「あなた達の愁訴の内容は、よく分かるつもりなんだけど」
ユスタスは髪をかきあげた。ちょっと伸びてきている。あとでブルーティアに切ってもらおう。
 「ルルドピアス姫が無事かどうか、クローバの意図がどこにあるのか、僕に確認してきて
  欲しいんでしょう」
 「そのとおりです」
 「無理だよ」
言下にユスタスは撥ね付けた。
 「ハイロウリーンの使者として立つことは許されないよ。
  フラワン家は名誉あれども実権なし。いかなる国の頼みであれ、その国の為には動きません。
  これは、ヴィスタチヤ帝国の定めたる黄金の法にして、フラワン家が死守すべき限界。
  この約束のもとに、トレスピアノは不可侵領地としての存在を許されているのだから。
  ハイロウリーンの王子であるあなた方にも、このこと、ご理解いただけるものと信じます」
ハイロウリーンの王子たちは、恐懼して、フラワン家の若者に面を伏せた。
悪竜退治に出かけた七人の騎士たちは竜の血を呑むことで聖騎士の祖と成りえたが、
その竜の焔から身を挺して彼らを護ったのが、フラワン家の聖女オフィリアである。
フラワン家への尊意は、ジュピタ家へのそれよりも重い。
しかしながら、ワーンダンとインカタビアは頑張った。
インカタビアは、朝食の席で、ブルーティアがぽつんとこぼした、
 「知りたいことは、ルルドピアスが、これからも無事であることだけ」
懊悩の果てにようやく残ったような、僅かなその希いを何とか叶えてやりたかったし、
ワーンダンの方は、もとより全責任を感じている身である。
両者はここで、フラワン家のユスタスではなく、騎士としてのユスタスに的を絞り、
説得の方向を切り替えた。
まことに賢く、聖騎士家ハイロウリーンに生まれた彼らは、さすがというべきか、騎士の
弱点をよく心得ていた。彼らは顔を見合わせると、ユスタスに対して、おもむろに
こう呼びかけ始めた。
 「フラワン家の騎士よ」
それは成功した。

 (------莫迦だよ……)

馬を走らせる鞍の上でユスタスは、己の迂闊さにうんざりしていた。
ユスタス・フラワンはその身分を隠し、平騎士ユースタビラとしてハイロウリーン
騎士団に中途半端に混じっている身の上である。
 「ルルドピアス姫の様子が分かればいいんだね。
  それとクローバに逢えたら、あなた達と話し合う余地があるかどうか
  探ってみるよ。首尾よくはこぶか否か分からないけど、それしか僕はやらないよ!」
 「お待ちを。いくらなんでも、御一人だけでは危険です」
 「ハイロウリーン兵を引き連れて移動するほうが、むしろ諸国の物見の眼につくよ」
ユスタスはワーンダンとインカタビアに投げつけんばかりに、隊服を脱ぎ捨てた。
平騎士が前コスモス領主クローバへの使者に立つわけにもいかず、さりとて
素性を明かして護衛を大勢つけるわけにもいかず、ユスタスは潔く、その全てを断って、
さっさと馬に跨ると、やけくそ気味に、第二陣から飛び出した。
 「今回は特別だよ。そしてこれはハイロウリーンの頼みに応えたからではなく、
  僕が個人的にやることだからね。僕に何かあっても関与を疑われないように、
  ハイロウリーンは絶対に手を出さないようにして。約束だよ、いいね」
そうしてユスタスは、トレスピアノを出てくる時に下男に借りてきた目立たぬ衣に着替えた上で、
ハイロウリーン陣を後にしたのであった。
 (知れたら父さんに大目玉をくらうよ。どこかの国の利害の為に動くなんて、
  それだけはやってはいけないという、まさにそれだもんな)
仕方がない。机上の空論など、外に出たら、よしなしごととはことごとく接触、衝突するものである。
酌量の余地があるとすれば、ユスタスにとってクローバ・コスモスは叔父であり、
ルルドピアスは従妹であるという、このあたりだろうか。
 (騎士とは弱きを護るもの。つい乗せられたよ。実際、ルルドピアス姫のことが
  心配ではあるからいいんだけどさ。おっと、早速おでましだ)
 「こんにちは」
浅瀬の川に沿って馬を歩ませていたユスタスは、小道を横切った釣人に
自分のほうから挨拶を掛けた。
釣人は無愛想に会釈を返し、通り過ぎていった。
 (今のはジュシュベンダかな、サザンカかな、それともフェララ、ナナセラ、
  オーガススィってことはないか。意外とコスモス。それとも隠密はお家芸のレイズンか)
釣りをするから分かるんだよね。こんなところで土地の者が魚を釣るものか。
ユスタスは馬をすすませた。
さて、あと何人、各国のはなった密偵とすれ違うことだろう。

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海を眺めている姫君は、この世の風と音の終わるところを見つめているようだった。
北国に降る雪も、極光の泳ぐ空も、月が生まれる夕暮れも、姫君の心を少しも
この国には定着させなかった。
姫君はひたすらに海を怖れ、そして怖れるがゆえにいつまでも夢の中、広漠とした
水の満干に、その美しい眼を向けて、黙っている。
トスカ=タイオは、その夢の面影にむかって囁きかけた。
 「もう、この国には二度とは帰っては来ぬかも知れぬな」
最愛の妹、それとも、愛娘。
大きな城に、淋しい風が吹き抜けた。

 「コスモス向かったイクファイファ王子は急遽、ハイロウリーンとの
  接触を試みておられます」
コスモス有事の決着がつくまでは姫たちの返還も叶わぬであろうが、国として
抗議を申し立て、せめて残った姉妹姫だけでも丁重に扱われているか否か、
オーガススィ側からの現状確認が必要であるためだと、サイビスは説明してみせた。
そして、それは認められるものと思われた。
 「拉致されたルルドピアス姫については、全責任をハイロウリーンに負わせます」
次官サイビスはその方向で処理を進め、その点において、かなり強気であった。
人が上機嫌の時にそうなるように、サイビスの眼は熱っぽく、異様に輝いてすらいた。
サイビスは両手をすりあわせた。
 「これ幸いとは口が裂けても申せませんが、ルルドピアス姫がハイロウリーンへ
  移送される途上で襲撃を受け、誘拐された今回の一件、これでオーガススィは
  ハイロウリーンに大きな貸しができました。こう云ってはなんですが、
  北方三国同盟といったところで、所詮オーガススィとコスモスはハイロウリーンの傘下。
  一段下の立場におかれおり、常々悔しい思いを」
口が裂けてもどころか、どこまでも国益優先らしく、いいものが転がりこんできたとばかりに
公文書の草稿を書きなぐるサイビスは、眉をひくつかせて、実に嬉しそうである。
 「クローバ・コスモスが潜伏中とおぼしきコスモスの邑には、コスモス兵が
  囲みをつくっているとのこと。ということは、やはりそこに拉致されたルルドピアス姫が
  おられるのでしょう。略奪者の目的も皆目分からず、姫の身も案じられはしますが、
  よもや姫にいたずらな危害を加えるほど、クローバ殿も落ちぶれてはおられるまいと
  存じます。ひとまず、お姫さまはご無事かと」
確かに、クローバがいたいけな姫に対して悪だくみをするとは思えない。
いっそ本人に失礼ではないかというほど、あの男に限ってそれだけはない。
シュディリスは、サイビスを残して、その場を離れた。
イクファイファ王子の私室は、さほど広くなく、適度に雑然としていた。
シュディリスをそこまで案内してくれたイクファイファの従者は、申し訳なさそうに、
 「あまりに整頓されると落ち着かないとのことで、王子のお部屋は
  少々とり散らかっておられます」
断りを入れたが、確かに不在の間も主がそこに居るかのように、室内はごたついて
平生のままになっていた。
積み上げられた本、笛、弦楽器、こっそり吸っているらしき噛み煙草。
天井の梁からぶら下げられた、鳥の骨組み。作りかけの帆船の模型。
こんな器用な趣味があるのかと意外に思いながら、シュディリスはごたついた
イクファイファ王子の部屋を好ましく見廻した。
 「留学時代の寮を思い出す」
 「ジュシュベンダ大學のですか」
 「学生の寮部屋はどこもこんな感じだった」
シュディリスは工具机の埃を手で払った。
 「シュディリス様がもしもヴィスタの都の学問所にご留学されていたら、お歳の近い
  ソラムダリヤ皇太子殿下やイクファイファ様とも、お知り合いになられていたかも
  知れませんね。抜け道、こちらです」
出立前にイクファイファが教えてくれた城の抜け道は、つづれ織りで隠したり、その周囲に
家具を置くなどすることもなく、むき出しの扉となって見えていた。
 「城壁の間に造られたこの隠し道は次第に下りになり、海側に出るのです。
  とはいえ、長い年月の間に一部が陥没してしまい、引き潮の時にしか通れません」
今日のところは様子を見に来ただけであるが、念のためにシュディリスは扉を開いてみた。
従者は青褪めた。
 「うわ、あの、すぐに通れるようにしますので」
どうやらイクファイファは長年の間、この扉の向こうを倉庫として使っていたらしく、
始末のつかないがらくたが放り込まれるままに山と積まれたままになっている。
稽古用の武具、甲冑、弓、球遊びの道具、釣り竿、長持、子供時代のおもちゃ、その他。
先にある筈の階段すら見えない。
これではかえってここに抜け道があるとは分からないだろうが、シュディリスに道を教えた
イクファイファ王子は、今頃コスモスでこの惨状を思い出して、慌てているのではなかろうか。
 「本当に、ここに道が?」
 「片付けますので。はい、すぐに」
恐縮する従者と一緒にそれらを片寄せていたシュディリスは、古びた
一冊の本を拾い上げた。
 「あ、それはイクファイファ王子さまが、ルルドピアス姫さまがご幼少の頃に
  よく読みきかせておられた画本で」
写本をぱらぱらとめくってみると、一枚の版画が眼に入った。
 「本当に仲のよいご兄妹で。城の古い者の中には、まるでトスカタイオ様と
  リィスリ様の在りし日を、もう一度見ているようだと涙ぐむ者もいたほどで」
巫女の前に膝をついた騎士の頭上に、輝ける星。
遠く離れたヴィスタの都、レイズン御用邸の一室で、ロゼッタ・デル・イオウもそれを見る。
 「せっかくコスモスまで行きながら、一度も巫女さまのお姿を拝見できず、
  残念でしたね」
都の若者らしく片耳に耳環をつけたジレオンの小姓アヤメは、甲斐甲斐しく、
療養中のロゼッタにひざ掛けをかけてやった。
主のコスモス行きには同行できなかったものの、留守番のアヤメは、ロゼッタの
傍にいることができて、かえって嬉しいようである。
 「ロゼッタ、何を読んでいるのですか」
 「スウール・ヨホウ様が余暇にご研究されている文献の一つです」
 「へえ。何だろう」
肩越しにのぞきこむアヤメは、ロゼッタの黒髪にわざと顔を寄せた。
ロゼッタは俯いたままだった。
 「騎士の御霊の眠るところ、空の上に広がる、星の海の島」
少女の指先は、古文を辿った。
隣の頁には、この手の本にはお定まりの、巫女と騎士の絵。
その声を聴きながら、アヤメはロゼッタの半身を抱くようにして、その白いうなじに
唇を寄せた。
ロゼッタが読み上げるのをやめて、振り返った。アヤメは苦笑して身を離した。
 「ロゼッタは、にぶいなぁ」
 「え」
 「にぶい人だ。いつまで許しておくんだと思って、こっちの方がはらはらしましたよ」
 「気がつかなくて。何か」
生真面目に本を閉じて、こちらに向き直ったロゼッタの真剣な顔に、アヤメは笑いを洩らした。
 (ジュシュベンダのいらくさ隊なら、こんな時、色仕掛けでアヤメを利用するのだろうか)
ロゼッタは、古文書の表紙を撫でた。


ゾウゲネス皇帝の意向を受け、ユスキュダルの巫女を表敬訪問する
ソラムダリヤ皇太子一行は、ようやく、コスモスに差し掛かっていた。
 「現地が落ち着くまで、わざとゆっくりめに行程を進めているのです」
もっと急がなくてもよいのかというエステラの問いに対して、ソラムダリヤはそう応えた。
ハイロウリーンとジュシュベンダの諍いを経て、諸兄ら頭をひやせということであろう。
ジレオン・ヴィル・レイズンはこの先に待っている各国の顔ぶれ一覧表に眼を通し、
聞こえるように付け加えた。
 「出迎えの中に、ミケラン・レイズン卿の名がありませんね」
彼は口許を皮肉っぽくゆがめた。

 「何と、領主タイラン・レイズンの名もないとは。兄である卿に気兼ねしてのことでしょうか」
 「ジレオン。コスモス領主には、城でわたしを待つように事前に通告しています」
 「わたしならば、それでも失礼のないようにソラムダリヤ様を城外でお待ちしますが」

コスモス手前の宿場で彼らと無事に合流したエステラは
馬車の窓を大きく開き、かねてより行ってみたかったという、コスモスの
遠景を身を乗り出すようにして眺めていた。
 「ほんとうにお伽の国ですのねえ。殿下、ご覧になって。あんなにも古い塔が今もそのままに」
 「ここからでは尖塔しか見えませんが、エステラ、あれがコスモス城ですよ」
 「まあまあ、可愛らしいお城。野原に浮かぶ、陶器の飾り物のよう」
 「貴女までも、おじ上の懐古趣味に染まりましたか」
道中、ずっとそうであったように、すかさずジレオンがエステラをからかった。
彼はずっとエステラの馬車の傍から離れず、なにくれとなく、楽しそうに
エステラの世話をやいていた。
 「ミケランおじ上所有の家には、海に沈んだ大陸の古物だの、骨董だのがいっぱいで、
  まるで彼は古美術商か博物学者まがいでしょう。分家の身は気楽で羨ましい」
 「お言葉ですが、本家のエチパセ・パヴェ・レイズン様もご同様の趣味を
  お持ちではなかったこと、ジレオン様」
 「エチパセおじ上については、あれは本物の変人です。ナナセラ公認の武具鑑定士とか。
  まったく、趣味も高じれば狂信と同じだな。どうしようもない」
 「それの何が悪いのかしら」
ひやかしで馬車を覗き込むジレオンからエステラは顔をそむけた。
 「何ごとも極めたらそうなりませんこと。常人と同じようなあたりで満足される方の中からは
  名人も達人も改革者も、生まれようもないのでは」
 「さすが、ミケランおじ上に仕込まれただけのことはありますね」
 「個人的な見解ですわ」
 「他にもおじ上から教育されたことがあるのでは。そこのところを今度ひとつ、
  個人的にご教授下さいよ、エステラさん」
 「いやらしいわね」
馬車の中から投げつけられた女の扇を、ジレオンは笑って避けた。
彼は鞭の先で前方を指し示した。
 「髪を整えて、いい顔をして、エステラさん。ほら、そこに、ジュシュベンダが整列していますよ」
 「エステラは、馬車から顔を出さぬほうがよいのでは」
 「殿下がこのように心配くださっていますが、エステラ、どうしますか。ミケラン卿の愛人だと、
  天下に知られるのは嫌ですか」
馬を併走させているジレオンはそこで顔つきをあらため、これは本気の気遣いをみせた。
彼は馬車の中のエステラに云った。
 「心配ならば、少々の窮屈は辛抱して、馬車の床に身を伏せていなさい。
  これは帝国皇太子殿下の行列であり、近衛とレイズンが護衛している限りは
  誰に何を云わせるものではないが、コスモスは粗野な田舎。好奇心まがいの
  野次が聞こえよがしに貴女に飛んでこないとも限りませんよ」
 「では、ジュシュベンダの前を通り過ぎましたら、馬車の窓を閉めさせてもらいますわ。
  余計な関心を集めることは、殿下にとってご迷惑でしょうから」
 「ジュシュベンダを通り過ぎたら?」
その理由は、じきにしれた。
コスモス領境界線上に布陣したジュシュベンダは、正装にて沿道に出揃い、
ソラムダリヤ皇太子を待っていた。
といって、なにぶんにも各軍、無断でコスモスの領域を侵害し、駐留している立場。
大仰な挨拶は抜き、事前にそのようにせよとの皇太子側からの通達も行き渡っていた為、
整然と道に並んで、その通過をお見送りをするばかりである。
それでも、ソラムダリヤはパトロベリの姿を見つけると、親しく、馬上から呼びかけた。
 「ああ、パトロベリ」
 「ソラムダリヤ皇太子殿下」
パトロベリは列の中から一歩進み出て、皇太子の前に頭を下げた。
ソラムダリヤ皇子は気さくな様子で、にこやかに、パトロベリに話しかけた。
 「無事に到着していたようで、何よりです」
 「殿下が、駿馬をお与え下さったお蔭にて。殿下のご厚情は生涯忘れるものではありません」
 「馬のことなど気にせずに。あれは友人としての贈り物です」
皇太子と親しげなパトロベリの意外な姿に、ジュシュベンダの面々は愕き、
先だってハイロウリーンの旗を落としたことに続いて、あらためてしげしげとパトロベリを見直した。
今ではパトロベリの生い立ちまわりをよく知っているソラムダリヤは、そのあたりも計算の上で、
とりわけパトロベリには眼をかけたのであった。
いかにシャルス・バクティタ将以下が顔をしかめていようとも、若者は若者の肩を持つものである。
皇太子とパトロベリの交友の様子は、概ね、若い兵らには好ましく、頼もしく、晴れがましく映った。
 「ゾウゲネス皇帝陛下のご名代とのこと。ご用命、ご無事に終えられますように」
 「ありがとう」
 「パトロベリ王子」
続いて通り過ぎる瀟洒な馬車から、美しい女が、やけに嬉しそうに
パトロベリ王子に挨拶を寄越した。パトロベリの口から、危険なコスモスに女のあんたは
連れて行けないと云われたことのあるエステラは、得意満面であった。
 「御機嫌よう」
 「何だい、あんたまで来たのか」
 「コスモスを見たいとねだりましたら、皇太子殿下が連れて来て下さったのですわ」
 「勝手なことして。ミケランのおじさんから折檻されても知らないよ」
 「パトロベリさんこそ、国許の君主には無断でこちらへ」
もちろん、エステラはジュシュベンダの者たちがいる前で、それ以上パトロベリに
絡んだりはしなかった。
いったいこの美女は誰なのだといった顔つきでこちらを見ている沿道の騎士たちへ向けて、
艶やかにエステラは微笑みかけ、貴婦人中の貴婦人といった様子で、去り際に
もう一度、パトロベリに、優雅な挨拶をしてみせた。ジレオン・レイズンも馬上から会釈を寄越した。
それは「ほほう」といった称賛を呼び、ますます、パトロベリはジュシュベンダ軍から
新鮮な心象で迎えられたのであった。
シャルス・バクティタを除いて。

「続く]


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