黒水仙
U.若鷲の剣
ブーティリエ家の人々は都を席巻した噂から、テレーズの消息と
失踪を知ることとなった。
もしやと思って尼僧院に問い合わせてみたところ、当たりだったのだ。
森から姿を消した修練女の年齢、容貌、そして何よりもその修練女が
大切にしていたという水晶のブローチが、テレーズの実母の形見の品と
合致したことが決め手となった。
修練女がテレーズに間違いないと知ったブーティリエ家の男たちは
いきり立った。置手紙一枚をのこして家出したテレーズはそんなところに
逃げ込んでいたのか。
「森の中で誘拐されただと」
「勝手な真似をするからだ」
「尼になど、とんでもない」
テレーズの義兄たち三人は、いそぎ馬車を仕立てたが、さて誰が
テレーズを探しに行くかでまた揉めた。彼らの名はブー家の長男、
次男、三男で充分である。
「まさか、お前たちのどちらかがテレーズをものにしようと誘拐し、何処かに
監禁したのではあるまいな」
「大兄さんこそ、テレーズを尼寺から攫い、幽閉しているのではないでしょうね」
「そういえばテレーズが家出をした日、小兄さんも夜遅くまで家にいなかった。
テレーズの跡をつけていたのではないのですか」
彼らは互いを睨みつけた。そこへ執事より来客が告げられた。
印章を商う名門だけあって、ブーティリエ家は玄関から一歩中に
入ると、ぴかぴかに磨き上げられた蜀台だの、大鹿の剥製だの、金ばりの
レリーフだの、老舗店のお屋敷に相応しい調度が眼にとび込んでくる。
兄弟げんかを一時中断して客間で待ち構えていた彼らの前に通されて
きたのは、愕いたことに、年の頃十五、六の美少年であった。
「どうも。こんにちは。ブーティリエ家の方々」
さっと帽子を脱いで、少年は挨拶に身をかがめた。
帽子からこぼれ出たのは、やわらかそうな白金の巻き毛。少年はその髪を
眸の色と同じ水色のリボンで一つに束ねており、少女でないことが惜しまれる
ほどに繊細な容貌をもっていた。しかしながら、黒い上着に輝く小さな徽章が
少年の身元を告げていた。
まだめんくらいながら、長男が少年に訊ねた。
「パトリス剣士隊から来られたとか」
「はい。若鷲級のオクタヴィアンと申します」
少年は少し高い澄んだ声で、誇らしげに、胸元の黒水仙を彼らに見せた。
ついでながらそれは、水仙を銀で象ったもので、黒い隊服の上では
流れ星のように輝くのだった。
ブーティリエ家の三兄弟は時ならぬ客人を前にして困惑した。
次男が顎に手を当てて考え込んだ。
「オクタヴィアン殿。そういえば、オリバーレス伯爵のお子にそのような名の
ご令息がいたはずですが」
オリバーレス伯は美貌の妻にもち、子沢山、愛妻家で有名な貴人である。
商売柄、長男以下は貴族界のことに詳しかった。
「あ、それは父です」
少年はもう一度うやうやしくお辞儀をし、
「しかしながら、パトリス剣士隊においては、家柄問わず名のみで公平に
呼ばれております。どうぞ、オクタヴィアンと」少女のように頬を染めて、帽子を
胸にあてた。
三男が手紙を取り出した。
「どうぞ。これが、家出したテレーズの書置きです」
「ありがとうございます。大切に預からせてもらいます」
「しかし、オクタヴィアン君。近衛隊長パトリスさまからのお遣いとは
解せません。警察なら分かりますが」
兄弟は不審そうであった。オクタヴィアンはその水色の眸をブーティリエ家の
面々に据えた。それは、山麓の宿屋で「狼男」が一瞬だけ見せたものと同じ、
パトリス剣士隊の一員としての自信と自負を帯びた、精兵のするどき眼つきであった。
少年は長男次男三男を順にひたと見つめた。
「こちらのお嬢さん、テレーズ・ブーティリエ嬢。引き取られてご養女になる
前の名は、テレーズ・モンバゾン。間違いありませんね」
「相違ありません。赤子の頃に当家の養女となったのです」
「テレーズは実の妹同然です」
ブーティリエ家の人々を前に、オクタヴィアン少年はある品を包みから
取り出した。その品とは、修練女テレーズと共に森からなくなったと思われながら、
三日後、都の古物商に売りに出された、テレーズの水晶のブローチであった。
「テレーズ嬢はこれと同じものを身につけておられましたか?」
「確かに」
「同じものだ」
「テレーズと一緒に消えたはずだ。どうしてあなたがこれを」
「このブローチが何かをご存知ですか?」
「テレーズの生母の形見です。死んだ父親がそう云っていました」
ひとつ頷くと、オクタヴィアンは彼らがそれに注意をとられている間に、
じりじりと居間の扉へとさがった。
「それは、硝子で作ったにせものです。裏面をひっくり返しても本物になら
彫られているはずのテレーズさんのお名はありません。けれど、見た目は
本物そっくりでしょう。テレーズ嬢がそれと同じものをお持ちであったことが
分かれば結構です。わたしの用はそれだけです。そのブローチは差し上げます」
美少年は一礼すると、劇場の役者よろしくつむじ風のような機敏さをみせて、
テレーズの義兄らが何かを云う前に帽子をさっと頭にのせると、身をひるがえし、
扉の向こうに消えてしまった。
ブーティリエ家から逃げるようにして走り出てきたオクタヴィアン少年は
鍔広帽の羽根かざりを揺らしながら曲がり角まで走った。それから
ゆっくりとした歩調になって、でこぼこした石畳を河岸の方までぶらぶらと
歩き、旧橋のたもとで建設中の新橋の工事を眺めている、同じ黒装束の
青年剣士の隣りにすいっと身を寄せた。
「行ってきましたよ」
オクタヴィアンは帽子の鍔をちょっと傾けた。
空は曇って、やや風があった。晴れた日には機嫌よく澄んでたゆたって
いる河も、漣が立つままに、今日は青磁色に重たげだった。
オクタヴィアンは空を仰いだ。
「これじゃ山の方は雨かも知れませんね、セヴラン」
「どうだった」
「彼らはテレーズ嬢の失踪には関係ないと思います」
「故アンジュー伯の私生児ということを知りながら、ブーティリエ家は
テレーズ嬢を引き取ったのだろうか」
「近所の話によると、三年前に父親が死んだ後、息子たちの間でテレーズ
嬢の取り合いがおこり、彼女に近づく男はすべて追い払われていたそうです。
喧嘩が絶えなかったとか」
「兄弟全員がテレーズ嬢に懸想してたのか」
「そのようです。居間に肖像画がありました。きれいな方でしたよ」
荷車が通った。セヴランとオクタヴィアンは道の脇に退いた。
旧橋は中央市場に続いている。夜明けもまだ遠い午前三時頃、近郊の
村々から農作物を満載した馬車が農民にひかれて市場へと向かう道であり、
この午後には、商売を終えて村に帰る彼らの馬車で混みあっていた。
十四歳から二十六歳までを揃えたパトリス剣士隊若鷲級の中で、セヴランの
年齢は真ん中より少し上あたりであった。
整った鼻をもち、かたちのいい眉の下にはきつめの光を宿す灰色の眸と、
頑固者らしい口、見かけほどは剛情でないものの、何となくとっつき
にくい感は否めぬところから、初対面の者は彼を避けて通ることもある。
打ち解けると意外と付き合いやすい人間であったが、その数少ない
相手のうちが、こちらのオクタヴィアン少年であった。
「故アンジュー伯が方々に私生児をこしらえ、赤子の全員にあの水晶の
ブローチを与えていることを、ブー家の彼らに教えてやればよかったな」
「贋物のブローチを手にした自称アンジュー伯のご落胤が、ひと昔前に
流行ったそうですね。贋物の贋物をみて、また誰かがブローチを作るといった具合で」
「なので古物商に行けば、比較的容易に硝子製の贋物が手に入る」
「ところが、今回のブローチは本物だった」
「古物商の若主人はその逸話を知らなかった。知らぬまま、ただの古ぼけた
ブローチとして買い取った。あとで老主人がそれを見つけた」
「老主人は、ブローチが贋作ではないと見抜き、慌てて届けを出した」
「秘密の調査が命じられた。しかし、肝心の持ち主は尼僧院からすでに
誘拐されていた」
「テレーズさんは何処に行ってしまったのでしょうね。無事でいらっしゃると
いいけれど」
渡河点となる中州を起源として、そこから河を挟んで発展していった国である。
大陸有数の文明を有し、城郭都市の面影を色濃く残した街並みには、建築家が
腕をふるった大聖堂が建てられて、高い尖塔のまわりには鳩が飛んでいた。
「尼僧院に聴き込みに行った狼男が何か収穫を掴んで帰ってくるといいが」
「狼男だなんて」
「それは、わが同士アンドレの話か!」
そこへ、どやどやと旧橋を渡って現れた三剣士。彼らもまた、セヴランと
オクタヴィアン同様、黒い隊服の襟に水仙をつけていた。若鷲級とは上衣の
仕様に少し違いがあって、同じパトリス剣士隊の大鷲級と分かるようになっている。
「お兄さま」
さっそくかわいい声を上げたオクタヴィアンの頬をつねったのは、大鷲級の
レオンである。
といっても、「お兄さま」はレオンのあだ名であり、彼の実弟は、同じ灰色の
眸をした、ここなるへの字口のセヴランの方である。
なぜ、レオンが隊士から「お兄さま」と呼ばれているか。
それは十年前、兄レオンの後を追ってパトリス剣士隊に入隊したセヴランが、
稽古の様子を見に来た兄レオンの問いに対して、いちいち、
『はい、お兄さま』
『いいえ、お兄さま』
返事をしていたことがいい冗談の種になり、以後、レオンは剣士隊の
諸氏から「お兄さま」の称号を奉られることとなったものである。
「お兄さま」レオンと共にいるのは、同じ大鷲級のヴィクトルとユーグ。
こちらはそれぞれ、「むっつり」と「お獅子」というあだ名がついており、
「お兄さま」と「むっつり」と「お獅子」は、ちょうどセヴランと、尼僧院に調査に行った
狼男ことアンドレと、美少年オクタヴィアンのように、いつも三人一緒なのであった。
「むっつり」のヴィクトルと、「お獅子」のユーグは、セヴランとオクタヴィアンに
ならって石を積上げた堤防の上に乗りあがり、対岸を見渡した。
「なるほど、見通しの良いここにいれば、山から帰ってくるアンドレ君の馬が
最初に見えるというわけだ」
「アンドレを尼僧院に派遣するなど、それこそ羊の群れに狼を放つようなものだ」
ちょうど通りかかった野菜売りの女から、レオンは売れ残りのキャベツを買った。
「見つけた」
むっつりの名のとおり、寡黙なヴィクトルが指差した。
「なに、もうか」
春キャベツの葉を咬んでいたレオンはキャベツを投げ捨てた。セヴランと
オクタヴィアンも堤から身を乗り出した。
「いや、あれはアンドレではない。護衛を従えた貴人の輿だ」
「”緋色の猊下”のね」
お獅子こと、金髪のユーグが、わずらわしげに頭をふった。
途端にレオンはヴィクトルとユーグを堤防から引きずり降ろして身を屈めさせた。
「護衛の中に、枢機卿の腰ぎんちゃくのカンタンはいるか!」
「いや、カンタンはいないようだ」
「どうでもいい。諸君、逃げよう」
「兄上、なぜ、逃げるのです」
不本意を覚え、セヴランは兄レオンの袖を引いた。
「われらは王従弟パトリス様の剣士。たとえ国王陛下の寵臣であろうと、
デギュイヨン枢機卿に臆することなどないはずです」
「それがいかんのだ、セヴランよ」
レオンはセヴランとオクタヴィアンの首根を掴んで、街路へと追い立てた。
帽子で顔を隠すようにして、ヴィクトルとユーグがそれに続く。ユーグが
オクタヴィアン少年に耳打ちした。
「先日、カンタンの部下を殺してしまったのだよ」
「あ、なぜ」
オクタヴィアンが眼を丸くして、それから、いやな顔をした。
「決闘はご法度だと、国王陛下からもパトリス様からも云われていたのに」
「喧嘩を売られたのだ」
「相手はこちらよりも人数が多かった」
「そして、今日も莫迦がまたひとり」
「なにっ」
ヴィクトルの指すほうへざっと振り向いた彼らは、いっせいに呻いた。
馬でやって来た黒衣の青年が橋の上で緋色の猊下の輿を追い越し、
追い越したとみえて、橋の上で蹄鉄型を描くようにして、さっそく馬を引き戻したのだ。
「狼男!」
「アンドレ!」
それはまさしく、山脈の麓の旅籠に泊まっていた、黒髪の剣士アンドレであった。
橋の欄干に沿ってきらりと光るものを見た大鷲と若鷲の者たちは、髪の毛を
逆立てた。
「いかん」
「あいつ、やる気だ」
レオンがヴィクトルとユーグに相談するより前に、セヴランとオクタヴィアンは
はやくも旧橋に向かって駈けだしていた。
デギュイヨン枢機卿は、後ろから近づいてくる馬音に、輿の後部窓を
振り返った。
”緋色の猊下”は、三十代後半、糸杉のような痩身で、かぎ鼻、頭蓋骨の
かたちが後頭部につれて広がりを持ち、真横から見ると、その影絵は
怖ろしげな蛮族の石像のようになる聖職者である。
王の寵臣でありながら、逼迫した財政を建て直すために自らも質素倹約を
旨とし、さりとて趣味の音楽方面には贅を惜しまず、大陸を流離っている
才能ある音楽家を都にとどめて、手厚く保護し、音楽学校を設立して有能な
教師を招聘、奨学制度まで整えたのがこの枢機卿、と、こう聴けば、めずらしく
私利私欲のない清廉なるお方のようであるが、人間誰しも欠点があるもので、
デギュイヨン枢機卿のばあい、それは敵に対しては一片の躊躇なく、情け容赦ない
処断を下して徒刑場に送り込むというところに、その性格の苛烈さがうかがえる
のであった。そして目下のところの猊下の敵といえば、宗教的な問題から
端を発してこじれているところの海を渡った某国と、王の弟である、オルレアン
公であった。
オルレアン公フィリップは当代随一の洒落者、その容姿端麗をさらに
引き立てるべく外国産のレースだの、本来は女性向けの品であるすみれや
黄水仙の香水だのを惜しみなく浪費し、舞踏会などの華やいだことが大好きと
きていたから、贅沢を眼の仇とする枢機卿としてはオルレアン公の姿など見るも
穢れといったぐあいであった。
もっとも宮廷人はこう噂する。
----デギュイヨン枢機卿は、同年であるオルレアン公の美男ぶりに
嫉妬されておるのだ
----かつてデギュイヨン枢機卿が懸想しておられたさるご婦人が
枢機卿をふってオルレアン公の誘惑を選んだので、今もそのことを
恨みに思われているのだ
その枢機卿は、後ろからやって来るのがオルレアン公と親しい王従弟
パトリスの私兵だと知ると、このまま真直ぐに進むようにと輿の担ぎ手に命じた。
邪魔だな!
都が城壁を越えて郊外に広がる前に建造された橋であるから、幅もない。
アンドレの馬を見て野菜かごを頭に乗せた農婦が慌ててわきに避けたが、
枢機卿の輿は道を譲ることなく、橋の真ん中を悠々と進んでいた。
仕方なく、アンドレは貴人の輿と橋の欄干の隙間を抜けるようにして馬を
のり入れさせた。
そこへ、
「隊長は今日もノアイユ伯爵夫人の許」
枢機卿の輿を警固していた男たちの誰かが、ぼそりと聞こえよがしに
呟いたからたまらない。ノアイユ伯爵夫人とは、パトリスが目下通いつめて
いるところの、情人の名である。
アンドレはパトリス剣士隊の隊員である。聴こえた以上、パトリスへの侮辱を
見過ごすわけにはいかなかった。それに見れば、どうやら緋色の猊下の
ご一行ではないか。剣を抜き放ち、アンドレは馬首を取って返した。このあたり、
対岸の堤から諸兄らに目撃されたとおりである。
「もう一度云ってみろ」
黒髪をひるがえしてアンドレは馬からとび降りた。
枢機卿お抱えの三人の男たちがアンドレをすぐにぐるりと取り囲む。
輿を担がせたデギュイヨン枢機卿は残りの護衛を連れてさっさと橋を渡りきり、
先に行ってしまったが、アンドレにはもう眼前の敵の姿しか眼に入ってはいなかった。
「おやおや、どうしたね、黒水仙の剣士どの」
「やるか」
「先日はそちらの隊員にうちの一人が殺されたのだ。お覚悟めされ」
男たちが剣を抜いて三方からアンドレに襲い掛かる。
「待て」
「これで三対三だ!」
そこへ駈けつけたセヴランとオクタヴィアン、たちまちのうちにアンドレに
加勢して、剣の音も高らかに、枢機卿の護衛たちを押し戻しはじめた。
この国において物売りは、昔から女がやる仕事と決まってる。
北国の氷河から切り出した氷を手押し車の底に敷いた魚売り、えんどう豆や
ねぎ、レタスやきゃべつを籠につめた野菜売り、村への帰り道に旧橋を
通りかかった彼女たちの、黄色い悲鳴と、贔屓を応援する野次がたちまち
橋に殺到し、近隣の建物の窓からは人々が顔を突き出して、旧橋の周囲は
騒然となった。
「決闘だ、決闘だ」
「黒水仙と、緋色の決闘だ」
王従弟パトリスと、デギュイヨン枢機卿の不仲は国中が知るところ。というわけで
人々はそれぞれの派閥に二分されるまま野次声を上げたが、質素倹約の
権化のような枢機卿よりは、やはり民衆には、パトリス剣士隊のほうが人気であった。
とくに人気を博したのは、美少年オクタヴィアンであった。
「子供は引っ込んでろ」
「子供だと」
「剣士見習がいいとこだ」
「云ったな」
巻き毛を束ねた水色のリボンをひらりとさせて、オクタヴィアン少年は橋の
欄干にとび乗った。
「来いっ」
後を追ってきた男を二、三打ち合わせただけで、オクタヴィアンは
ひと突きで沈め、ついでに欄干から下方の河に蹴り落としてしまった。
その隙に、少年の足をすくおうとした男を走ってきたアンドレが剣を投げて
邪魔立てして止め、手ぶらになったアンドレにセヴランが斃した男から
取り上げた剣を投げ渡すときては、ほとんど大道芸である。
「軽業師のような連中だ。眼が回る」
「息ぴったりの連携だな」
人々の垣根に顔を突っこんで、こそこそとそれを眺めていたヴィクトルと
ユーグは、レオンに伺いをたてた。
「どうする、レオン」
レオンは帽子をかぶり直した。
「彼らに任そう」
「いいのか」
むっつりとお獅子は心配そうであったが、レオンはもう歩きだしていた。
「若鷲の喧嘩に、さらに大鷲が加わったと知れたら、パトリス様に大目玉だ。
それに、あの中には一番手ごわいカンタンもいないことだ」
橋からわあっと喚声がわき上がった。どうやら、若鷲の三人は見事に
緋色の猊下の郎党を負かしてしまったようであった。
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